夢の残骸

夢を、見た。


それは、とても綺麗な夢。

目が覚めると、現実に耐え切れなくて消滅してしまうよな。

とても、綺麗な夢を。







 夜明けに、目が覚めた。

 夢の残骸を抱き締めながら、そっとベッドから起き上がる。

 隣には、何よりも好きな先輩の姿。

 起こさないようにそっと起き上がり、まだ寒々とした部屋の中を静かに歩く。
 朝はまだ、遠いだろう。
 音を立てないようにそっとカーテンを引き、外を見る。
 闇に包まれた街は、次第に目覚めようとしていた。

 白く染まっていく闇を、見つめる。

「…赤也?」

 ふと耳に馴染んだ声で名前を呼ばれ、振り返る。
 声を掛け、その手を伸ばしているのは、間違いなくあの人。

「…すみません…起こしちゃいましたか?…柳先輩」

 導かれるままにこの腕の中に身を委ねると、柔らかい温もりが、この身体を柔らかく
包んでくれる。

「夢を…見たんスけど……」

 何も気負う必要のない、柔らかな世界で。

 思いつくままに、言葉を紡ぐ。


「目が覚めたら、何も覚えていなくて。…だから、捜していたんです」

 なくしてしまった、夢の残骸を。

 そう告げると、柔らかな温もりが額に触れる。

「…大丈夫だ。お前は何もなくしていない。すべて、お前の中にある。忘れたのは、今
は必要ないからだ。…心配いらない。だから、もう少し休んだ方がいい」

 優しく諭され、素直に頷いた。


 彼が、間違った事を言う筈がなかったから。


 優しい温もりに包まれて見た夢は、現実と同じ優しい夢だった。