衝動

意識して、そうなった事は一度もない。

 けれど、いつからか。

 何かに押し出されるかのように、沸き起こる衝動。


 揺るぎない時間の重さ。
 何かに対する依存。
 敗北を厭う感情。


 その衝動を覚えた時に感じるのは、自分が自分でなくなるような感覚。

 自らを内側から焼き尽くすような恐怖。




 けれど、いつもそれから自分を救い出してくれる人がいる。




「赤也ッ!」




 きつく抱き締められて、その腕の温もりと、何よりも好きなその声に、心の底
から安堵した。

「柳…先輩…」

 それは、まるで解放の呪文のような名前。
 たちまち闇は消え去り、すべての衝動が跡形もなく消滅する。





 赤也の瞳が、通常に戻った事を確認して、柳はそっと安堵の溜息をついた。

「…赤也。もう大丈夫だから。…少し、休みなさい」

 こくりと頷き、素直に瞳を閉じた赤也を強く抱き締めた。

 彼が恐れる闇から守るように、強く。