寒い朝
寒いな、と思って目が覚めた。
自分は寝つきが良い方だし、寝相も悪くないから、夜中に目を覚ますなんてほとんどない。
珍しいな、思って身体を起こしかけると、胸の辺りに赤也が抱きついて眠っていて。
ああ、そうか。
思い出す。ほとんどなかったのも、珍しかったのも今はもう過去の事で。
こうやって夜中に起きるのが、今では日課になっていた事を。
起こさないようにそっと、傍に除けてあった毛布を引いて赤也を抱き寄せる。
無防備な寝顔に、つい笑みが零れる。
ああ、もう今夜は眠れないかもしれない。
こんな風に、もう当たり前になってしまった日常を、改めて愛しく感じてしまう夜は。
抱き寄せた身体の温もりに限りなく、心は安らいで。
知らずに願ったのは、きっと永遠だろう。
穏やかな朝の光に照らされて。
赤也はゆっくりと目を覚ました。こんなに穏やかな目覚めは、久しぶりかもしれない。
あまりにも心地良い目覚めだったから、また眠ってしまうのが勿体無くて起き上がろうとした。
「……あれ?」
そこにあったのは、見慣れない光景。
心地良いと思ったのは、柳の腕の中だった。
いつもは必ず赤也よりも先に目を覚ましている柳が、彼を抱いたまままだ眠りについている。
「…どうしようかな…」
柳の腕の中に納まったまま、赤也は思案した。
柳よりも先に目を覚ます事など滅多にない。
このまま先に起きて、柳の為に朝食を準備するのもいいと思う。
自分だって、柳の為に何かしてあげたいのだから。
けれどこの腕の中は心地良すぎて。
せっかくの決心は、鈍ってしまう。
心地良い腕の中で、何度も躊躇して。
やがて、ようやく決心したかのようにその腕を抜け出す。
温もりに慣れた身体に、朝の空気は少し冷たかった。
「………?」
何時の間に眠ってしまったのだろう。
気が付くと、ベットに一人きりで眠っていた。
「赤也?」
はっとしてその名前を呼ぶが、返事はない。
毎朝、必ずその温もりを感じて目が覚めていただけに、焦りを感じて辺りを見渡すが、その姿は見えず。
「赤也!」
「…あれ?柳先輩起きちゃいました?」
半ば開かれていた扉の奥から、大きすぎる柳のエプロンをつけた赤也がひょっこりと顔を出した。
「うわー。まだ何もしてないッスよ。お湯沸かしただけで…」
慌てて戻ろうとした赤也だったが、背後から腕を引かれて柳の腕の中に閉じ込められる。
「え?」
ぎゅ、と腕に力が込められたのがわかった。
「…どうかしたんスか?」
「………何でもない……」
もう二度と、赤也より後には起きないようにしよう、と。
そう密かに、決意した。
何度もこんな想いをしたら、きっともう彼を手放せなくなる。
何処にもいかないように、この部屋に閉じ込めてしまいたくなるから。