ライバル
激しい雨が降った、夕方頃。
帰ってきたのは、子猫二匹。
びしょ濡れになって、玄関に立ち尽くしていた。
「赤也…?」
声を掛けると、はっとしたように顔を上げる。
「どうかしたのか?そんな所に立ち尽くして。…風邪を引くぞ」
上目遣いで自分を見る赤也の、その胸元に抱かれていたのは、汚れた小さな子猫。
捨て猫だったのだろう。こんな雨の中だ。放っておけば死んでしまうに違いない。
「…猫…」
小さく呟き、赤也はそれきり黙ってしまう。なかなか家の中に入られなかったのも、この猫を拾ってきたせいか。きっと反対されるとでも思ったのだろう。
「赤也、おいで」
大きなバスタオルを取り出して、赤也の頭にふわりと被せる。触れた肌は冷え切っていて、冷たかった。続いて小さなタオルで子猫を包む。
「2人とも、風邪を引いてしまうから。早く中に入りなさい」
この言葉にぱっと顔を輝かせて、赤也が笑う。
その顔を見て、馬鹿だな、と思う。
こんなにも愛しい者が、望む事をどうして反対すると思うのか。
本当に馬鹿で、愛しい。
「早くシャワーを浴びて着替える事だな。本当に風邪を引くぞ」
「はーい。…一緒に入ろうっか〜」
声を掛けた相手は、自分ではなくあの小さな子猫。
咄嗟にタオルで子猫を包む。
「子猫は水を怖がるから、綺麗に拭いて乾かした方がいいだろう。赤也、早く入ってきなさい」
「はーい」
ちょっと残念そうに去っていく赤也の後姿に、溜息が一つ。
どうやら自分は、強力なライバルを自ら招き入れてしまったようだ。
ぬるま湯で綺麗に拭いて、乾かした子猫は真っ白な綺麗な毛並みをしていた。
きっと赤也は夢中になるに違いない。
無垢な愛らしい子猫の瞳に、ふと対抗意識を持っていた自分に気が付いて苦笑する。
けれど、どんな相手にも譲れないのは事実。
手元にじゃれつく子猫をあやしながら、ひとり黙々と対策を練るのだった。