空間

この身体も。この心も。
 魂でさえも。

 ひとつに溶け合ってしまえばいい。

 二度と離れる事がないように。



 背中合わせに座ったまま。
 ただ、互いの体温を感じたまま。

 ずっと、そんな事を思っていた。
 それだけを願っていた。







 そっと声を掛けてみる。

 けれど、返答はない。どうやらすっかり眠ってしまっている様子だった。


 苦笑しながらも、この静かな空間を心地良いと感じていたから。

 そっと起こさないように抱きかかえると、無意識だろうか、縋り付いてきた。

 声さえも透き通るような、この空間を。






 
静かに名前を呼ぶ声が聞こえた。

 咄嗟に瞳を閉じて、思考も閉ざす。
 
 眠っていると思ったのか、優しい仕草で抱きかかえられた。

 寝たふりを装いながらも、縋り付く。

 時間が止まったような、この空間を。





 時は、永遠ではなく。
 命も、永遠ではなく。



 だからこそ、願う。

 この身体も、心も。
 魂でさえも。

 ひとつに溶けあってしまえばいいと。



 声さえも透き通るようなこの空間を。
 時が止まったような、この空間を。




 硝子のように儚い刻だけが。

 この閉ざされた空間を、無限に支配した。